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大江戸つくどよろず診療所かわら版 第44号

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第44号 令和元年6月号

大江戸つくどよろず診療所かわら版 第44号第44号
令和元年6月号

*掲載の写真はご本人の了承を得ております。

21世紀のロボット手術

 このたび、病院に導入された新しい手術器具を紹介しましょう。それは医療用ロボット、その名も『ダビンチ®』(以下ダビンチ)ご存知、歴史上の偉人で、医学ばかりでなく、芸術、建築、天文学、数学などあらゆる領域に秀でた科学者のレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)に由来しています。今回のかわら版では、この機器がどういうものかを、当院泌尿器科の木藤医師へのインタビューで紹介していきましょう!

泌尿器科部長 木藤 宏樹

●開発の経緯

 もともと、この医療ロボット構想は、戦場の負傷者に遠隔操作での医療提供をすべく、アメリカ軍が開発を始めました。そのアイデアを民間が引き継いで、内視鏡下の手術用ロボットとして1999年に完成に至り、アメリカでの使用が始まりました。翌年には日本でもアジアで初めて導入されました。その後も改良が繰り返され、今回当院が購入したものは、様々な機能が備わった4代目で最新型のものになります。

●優れた機能

 この装置の最大の特徴は、患者さまに低侵襲(ていしんしゅう)の手術、すなわちお体への負担が少ない手術が提供できる点でしょう。低侵襲手術は、次のような利点があります。
① 傷が目立たない
② 出血が少ない
③ 痛みも少ない
④ 機能の温存に優れる
⑤ 早期退院が可能
4つめの『機能の温存』は、みなさまには聞きなれない言葉かもしれませんが、わかりやすくいうと、体の犠牲が少ないということです。ダビンチは狭いところでの細かな作業を得意としますので、たとえばおなかの中の奥深いところの手術をする際、人の手では到達困難な場所でも、ダビンチでは容易にたどり着くことが可能です。また、アーム(腕)の先に装着されたメスやピンセットの動きも自由度が高いため、人間であれば手首を360度以上回転させたいような場面でも、これを実現できてしまいます。さらに、手元の大きな動きを細かな動きに変換することで、微細な動作も可能となるため、1円玉より小さな折り鶴を折ったり、米粒に絵を描くこともできます。これらの機能により、従来では筋肉や血管などの損傷をさけられなかった手術でも、ダビンチがあれば、最小限のダメージで手術が進められるのです。
医療者にも良いことがあるのです。熟練すれば時間の短縮になるばかりか、操縦席のような場所で、座った姿勢で手術を続けられるので、疲労の軽減も期待されます。また、これまでの内視鏡下の手術は、テレビ画面を見ながらの二次元の世界で行っていましたが、ダビンチではアームの先端に2つのカメラがあるため、術者は双眼鏡のようなものを通して、術野を立体的に観察することができます。これらの特徴に鑑みると、ダビンチという医療ロボットの登場は、医療手術の歴史の中においてルネサンスといっても過言ではありません。

実際の手術風景

●適応となる手術

 こうした特性から、ダビンチを使用しての手術は、2012年に泌尿器科領域の前立腺癌の手術で保険適応となり、このたび当院でも泌尿器科が中心となって導入することとなりました。2018年4月には消化器外科、婦人科、胸部外科領域の疾患にも保険適応が拡大となっており、今後、ますます多くの手術において、本機が活用されていく時代となるでしょう。

●最後に

 レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年にあたる2019年、当院でもようやくこの高性能マシーンを購入し、この恩恵を享受することを、みなさまにご案内することができました(これぞまさに受胎告知?)。そして、今では標準医療となりつつあるダビンチでの手術を、地域のみなさまに提供できるはこびとなりましたことに喜びを感じております。これからも一層、ダビンチを備えた私どもに、ご指導、ご鞭撻、ならびに手術依頼をいただきますよう、よろしくお願いいたします!

ダビンチロボット手術システム

(聞き手:藤井大輔)
※ダビンチ®は、登録商標です。

気になる病気にがぶり寄りシリーズ 第17回

人生を変えてしまう危険な不整脈ー心房細動の早期診断、早期治療で脳梗塞と心不全を予防するー

循環器内科部長 大道 近也循環器内科部長
大道 近也

●人生を変えてしまう病気

 不整脈は心臓の病気のなかでも多くの人が病院を受診する原因の一つです。危険な不整脈と心配のいらない不整脈が存在しますが、本人の勝手な判断で危険なものを軽く考えたり、心配のいらないものを逆に重く受け止めたりする人も多いように見受けられます。タイトルの『人生を変えてしまう』と言うと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、この記事をご覧の方に、この病気で人生が変わらないようにと、少しでもお考えいただきたく、筆をとった次第です。
中でも危険だと思われるのは『心房細動』という、ごくありふれた不整脈です。心房細動の状態では、心房と呼ばれる心臓の部屋が規則正しく動かなくなることで血液がよどみ、血の固まり(血栓)ができてしまいます。この血栓が、ある日突然心臓から脳血管に飛んで、脳梗塞を発症します。このタイプの脳梗塞は「心原性脳梗塞」と呼ばれ、徐々に血管が細くなる「動脈硬化による脳梗塞」と比べ、ある瞬間に症状が発症するため、「ノックアウト型脳梗塞」ともいわれています。また、心原性脳梗塞は重症化しやすく、命が助かったとしても四肢麻痺などの後遺症が残ることが多くあります。

心房細動(心電図)心房細動(心電図)

●有名人も避けられない

 実は、この心房細動由来の脳梗塞は、元プロ野球選手の長嶋監督や元サッカー日本代表のオシム監督が発症し、その後の動向や後遺症が報道されることで耳目を集めました。
このタイプの脳梗塞は、このあと説明するカテーテルアブレーション(心筋焼灼しょうしゃく術)という治療で、ある程度予防が可能です。80歳でエベレスト登頂を果した三浦雄一郎氏が、心房細動に対してこのカテーテルアブレーション治療を複数回受け、登山家を続けられていることをご存知の方もいらっしゃるでしょう。

カテーテルアブレーションの様子カテーテルアブレーションの様子

●心房細動があっても無症状のことも

 この心房細動という不整脈は、脳梗塞以外に動悸、息切れ、胸痛などの症状が出る病気ですが、全く症状のない場合も少なくありません。つまりは健診、人間ドックなどの心電図で初めて見つかることもあるわけです。
また、初期のうちは、たまにしか脈の不整が出現しないため(発作性心房細動)、定期的に検査していても見つからない場合があります。ですから、自分は病気がないと思っていても、ある日突然、脳梗塞が起こってしまうことがあるのです(ワンポイントアドバイスも参照ください)。

●早期診断・早期治療が肝要

 そうならないためにも、心房細動は早期診断、早期治療が大切で、治療としては、不整脈自体を抑える治療と、血液をサラサラにする抗凝固療法が中心となります。
不整脈を抑える方法には、①抗不整脈薬②電気ショック(AED)③カテーテルアブレーション、などがあります。抗不整脈薬や電気ショックは、心房細動が始まってからの期間、心不全、その他の疾患との関連で選択されますが、効かない場合もあり、症状が悪化する場合には、早めのカテーテルアブレーションが検討されます。
カテーテルアブレーションは、薬のみで治療した場合よりも正常の脈拍を維持することに優れ、心房細動の2大合併症である脳梗塞と心不全の予防に効果的です。

●カテーテルアブレーション(図)

 カテーテルアブレーションとは心房細動の原因となる異常な電気活動を抑える治療です。高周波を発生する細長い管(カテーテル)を足の血管に挿入し、血管の中を進めて心臓に至り、不整脈の原因となっている部分にあてて、異常な電気の通り道を遮断するのです。
ほとんど正常心拍で、ときどき心房細動が出現してしまう発作性心房細動の状態であれば80〜90%、発症後1年以内の心房細動であれば70〜85%程度の効果が得られます。
しかしながら心房細動が1年以上持続していたり、重篤な心不全を合併する場合には、カテーテル治療の効果が低くなりますので、脈は心房細動のままで症状を安定させる治療を選択します。
正常の脈拍に戻らない場合は、抗凝固療法だけでも、脳梗塞を発症した時に、その症状や後遺症が軽く済むことが知られています

●最後に

 心房細動由来の脳梗塞が発症してしまうと、家庭や会社で大切な人が急変して、今までの生活や仕事ができなくなります。そして、周囲の人も巻き込んで、残りの人生の大半を闘病生活や後遺症のリハビリに時間を割くことになり、経済的にも精神的にも大きな負担となります。それでも交通事故や火災と同じように、自身が実際に脳梗塞を発症するまでは、それがどれだけ重いことかを理解できないことが多いかもしれません。
しかしぜひ、心房細動が見つかった方々には、転ばぬ先の杖ではありませんが、転ばぬ先のカテーテルアブレーションをお勧めさせていただきます。全ての心房細動の患者さまが適応ではありませんので、現在の状態を拝見して適応を決めていきます。普段、動悸や胸の症状がある方、健診などの心電図で不整脈を指摘された方は、いちど循環器内科を受診し、危険な不整脈でないかを判断してもらうようにしてください。

ワンポイント脈のとり方 指3本で触れて下さい。

●ワンポイントアドバイス

 早期診断の方法の一つとして、ご自身で脈を測っていただくことも有用です。脈が毎拍不規則に打つようであれば、心房細動の疑いが高いので、循環器内科をご受診ください。

(循環器内科 大道近也)

へき地医療への貢献

式根島

式根島へ行ってきました。

  4C病棟に勤務している本間佳子と申します。今回、式根島在住の看護師が一時的に島を離れるにあたり、東京都看護協会から当院に短期の看護職員の派遣要請があり、以前よりへき地医療に興味のあった私が希望して、式根島に行くことになりました。
式根島へはプロペラ機と連絡船を利用して行くのですが、当日は台風の影響で、空も海も荒れており、手に汗握る移動となりました。式根島の隣の新島にプロペラ機で移動し、新島から連絡船に乗り換えましたが、そこから見た式根島は自然豊かで、同じ東京都と思えないほど綺麗な島でした。派遣された時期は観光シーズンでしたが、すれ違う人も多くなく、式根島に到着したときは、人口の少ない島だなと感じました。島民の方は高齢者が多く、生活習慣病などは本土と大きな変わりはありませんでした。
式根島では医師1名、看護師2名で、約530名の島民と観光客の対応をしており、子どもから高齢者まですべての診療と健康診断、スポーツ大会の救護も担当し、当院との違いを実感させられました。医師や看護師の住居は診療所のすぐ近くにあり、何かあれば24時間体制で対応できるようになっていました。また当院では職種や専門分野によって業務内容が分かれていますが、ここでは限られたスタッフと資材で全ての業務をこなさなければならないため、幅広い知識と技術が必要です。また治療においては、診療支援をうけている本土の病院と電話相談したり、院外処方や検体を本土に船便で送ったりと、搬送体制なども連携することで、スムーズな診療が成立していることを学びました。船の欠航で物資が届かないこともあり、緊急時にはドクターヘリや自衛隊のヘリで搬送することもあるそうです。また当院では検査技師が行う血液検査機器の操作や薬剤師が行う調剤も、島では看護師の業務となり、日常ではなかなかできない貴重な経験でした。

式根島地図

私が滞在していた時に起こった印象深い出来事としては、ウニの棘で刺傷した患者さまがいたのですが、ウニの棘には節があって、折れてしまうと棘がさらに短くなり、島の診療所では除去が難しく、結局、後日患者さまは船で移動し、本土の病院で処置をしてもらったそうです。このように都内であれば、すぐに対応できることも島では難しいこともあり、へき地医療の難しさを痛感しました。
今回、私が実際に、島の診療に携わったのは2日間ほどでした。初めてのことばかりで、島在住の看護師さんには大変お世話になりました。この方は6年ほど前に式根島に移住してきたそうです。島民の方々とともに過ごし、看取りまでできることにやりがいを感じていると話されていたことがとても印象的でした。同じ医療でも環境の違う現場を体験することで、今までにないことを経験し、視野も広がりました。機会があれば、また行きたいと思う貴重な体験でした。(聞き手:江藤 紘文)

「フレイル」ってなーに?

式根島

現在の超高齢社会において、多くの人が、障害や介護が少ない状態で寿命をまっとうする「ぴんぴんころり」を理想としていると思います。それを実現するためには健康寿命(介護などを必要としない元気な期間)を延ばすことが重要です。要介護になる主な原因として、認知症、衰弱、脳卒中、転倒、骨折などがありますが、その前段階としての「フレイル(虚弱)」という状態が今非常に注目されています。
フレイルとは、加齢による自然な老化のことではなく、「体重減少」「疲れやすさ」「活動量の低下」「歩く速度の低下」「筋力の衰え」などの症状を伴う、いわゆる「虚弱」な状態のことをいい、この状態の方が、何らかの病気やけがを合わせ持った場合、要介護になりやすいと言われています。多くの場合、健康な状態からフレイルの状態を経て、要介護状態へ至ると考えられています。
フレイルは、加齢に伴う身体能力の低下や、心臓・血圧など生理機能の低下、いわゆる「身体的な要因」に注目されがちですが、認知機能や意欲の低下、うつなどの「精神・心理的な要因」、独り暮らしや引きこもり、経済的困窮などの「社会的要因」が、互いに複雑に影響し合って引き起こされるのです。
現在75歳以上の高齢者におけるフレイルの割合は20%~30%とされています。自然な形の「老化」では、日常生活に大きな支障や障害がおきることは比較的少ないのですが、フレイルを伴った高齢者では、日常生活が困難になり、施設への入所を余儀なくされたり、転倒、骨折、誤嚥ごえん性せい肺炎はいえんなどの健康障害がおきやすく、入院、死亡の割合も高くなることが知られています。
フレイルは、そのまま放置すると次第に深刻な状況になり、要介護状態に陥ってしまうことが多いのですが、見方を変えれば、まだ要介護状態の前段階であるため、適切な治療や介入をうけることで、再び健常な状態を取り戻すことができるのです。

フレイルの基準として、①「年間5%以上の体重減少」②「易い疲労感ひろうかん」③「活動量の低下」④「歩行減弱」⑤「筋力低下」の5項目のうち3項目以上が当てはまる場合「フレイル」と診断されます。その他に、うつ、認知症、閉じこもり、社会との関わりの有無、などが判断の基準となります。(表)
予防、改善の対策としては、まず原因となる疾患が明らかな場合はきちんと治療し、社会とのつながりを持つことが重要です。そして、要介護状態を予防するための筋力アップの対策としては、運動と栄養の両方を考慮した生活習慣の改善を行うことが、効果的と考えられています。
表の5項目のうち3項目以上があてはまり、ひょっとしてフレイルかも?と心配になられた方は、まずはかかりつけ医に是非ご相談ください。そして、適切な治療と、運動・栄養・生活指導を受けることをお勧めします。
まずは、フレイルはどういうものかを知り、次に自分の状態を知ることが健康寿命を延ばすために重要です。最近、自分や周りの人に急な体重変化がないか?何もしていないのに疲れていないか?外出が減ってないか?など、確認してみてはいかがでしょうか。(リハビリテーション室 森田 泰裕)

式根島

式根島地図