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第49号 令和3年12月号
*掲載の写真はご本人の了承を得ております。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)健康寿命を延ばすために
骨粗鬆症センター
正田 修己 センター長
骨粗鬆症がどのような疾患なのか、皆様のご理解の一助となるよう解説をしたいと思います。
予防と治療の重要性
日本人の寿命は延び続けていますが、自立した生活を送ることができる期間「健康寿命」は平均寿命よりも男性では約9年、女性では約12年も短いことが明らかとなっています(図1)。厚生労働省による国民生活基礎調査によると、要支援・要介護に至る原因のうち、およそ4分の1が骨折・転倒を含めた運動器障害でした(図2)。このことから運動器の健康、特に骨折の予防は健康寿命を延ばすために重要であることがわかります。また、骨粗鬆症による骨折が一度でも生じると、その後に次々と骨折が起こりやすくなり、腰(腰椎)や太もものつけね(大腿骨だいたいこつ近きん位い部ぶ)を骨折した場合には死亡リスクも高くなります。したがって骨粗鬆症の治療を行い、骨折の危険性を少なくすることは非常に大切です。
原因と診断
骨粗鬆症とは、骨強度(骨の強さ)が低下して、骨折しやすい状態になることです。古くなった骨を壊して新しい骨を作るという、骨代謝のバランスが崩れると骨は弱くなります。原因として、女性では閉経による女性ホルモンの低下がよく知られていますが、男性でも加齢とともに骨密度は低下します(図3)。また、糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病や内分泌疾患、ステロイドの使用も骨粗鬆症が進行する原因となります。いずれにしても、20歳までにどれだけ骨の量を増やすことができたかと、50歳以降にどれだけ骨を減らさないかが骨粗鬆症を予防するポイントになります。
骨粗鬆症の診断は骨密度検査と脊椎レントゲン検査によって行います。骨密度は腰椎と大腿骨近位部で測定することが望ましいです。また、脊椎は知らないうちに骨折を起こしていることが多いのですが、一つでも見つかった場合は骨密度検査の結果にかかわらず、骨粗鬆症と診断されます。
治療
骨粗鬆症の治療では、運動と食事、そして薬物治療の3つが重要です(図4)。運動療法の目的は骨密度を維持・上昇させること、筋力とバランス能力の維持・向上により転倒を予防することです。
食事では、特にカルシウムとビタミンDの摂取が重要です。カルシウムは50歳以降の男性では約750mg、女性では650mgの一日摂取量が推奨されます。ビタミンDは食事からの摂取のほかに、紫外線によって体内でも作られていますが、多くの高齢者に不足しています。血液検査によってそれらの評価が可能であり、不足している場合は骨粗鬆症の治療薬としてビタミンD製剤を補充することになります。
薬物治療についてですが、現在は様々な種類の薬が、内服薬や注射薬として使用されています。骨密度や骨折の有無、血液検査の結果を総合的に判断し、患者さまあるいはご家族と相談して最善の治療薬を選択することが重要です。
骨粗鬆症センターでは皆さまが長い人生を健やかに生活できるように、骨粗鬆症の予防と治療に取組んでおります。是非ご相談ください。
(骨粗鬆症センター 正田 修己)
3つのオレンジへの恋プロジェクト
オレンジステーション(総合案内)
初めて病院を訪れる患者さまは、ただでさえご自身の病気や体調に不安があるうえに、不慣れな場所で一層の孤立感を感じておられる方が少なくないと思われます。これらの不安を取り除き、安心して受診していただけるよう、私たちは「オレンジチーム」を立ち上げました。オレンジチームは厚労省の「新オレンジプラン」からネーミングしました。‘オレンジ’は認知症対策のシンボルカラーですが、今後増えると思われる認知症の患者さまだけでなく、病院に不慣れな方やサポートが必要と思われる幅広い患者さまに対して、いかにわかりやすく安心していただけるかを考え取り組んでいます。
具体的には、「オレンジステーション」「オレンジファイル」「オレンジリング」の‘3つのオレンジ’を活用していきます。
「オレンジステーション」は患者さまが必要な時にいつでも相談できる場所です。
「オレンジファイル」は支援の必要な方が持つことでスタッフがすぐにわかるように、「オレンジリング」はサポートスタッフが身に着けることで、患者さまからも一目でわかり、頼りやすくなります。
オレンジファイルの説明(院長・看護部長)
患者さまは、様々な診療科を受診し、また検査、放射線など多くの場所を訪れるのですから、医師・看護師のみならず全ての職員が対応の術すべを知っていなければなりません。今年度はオレンジリングを装着するサポートスタッフを約150名養成する予定です。すでに研修を受けたスタッフがオレンジパートナーとしてオレンジリングを装着し、各所で対応しておりますのでお気軽にお声掛けください。また、将来的には「オレンジファイル」を地域で共有し、支援を必要とする方の目印として活用できることを目指しています。まずは10月1日より近隣の調剤薬局との連携を始めています。
ちなみに、私たちのプロジェクト名は、ロシアの作曲家プロコフィエフのオペラ『3つのオレンジへの恋』(原作はイタリアの劇作家カルロ・ゴッツィ)になぞらえたものです。
(看護部長 野月 千春)
精神科医が感染症流行について思うこと
花を育てるヂヱコさん95歳
一時期「コロナうつ」という言葉が盛んに報道されました。しかし、世界的な感染症の流行という未曾有の災厄の中にあっては、誰しもが心身の不調を感じて当然だと思います。ですから、新たに「コロナうつ」という病気が生まれたかのような表現は少々行き過ぎではないかと考えています。
そこで今回は精神科医の視点からこの感染症の流行が、私たちの心に及ぼした影響について、特に人と人との関わり合いに関することを中心に、少しお話したいと思います。
「心を供にする」
日本はこれまで数多くの自然災害を経験してきました。その都度私たちは声を掛け合い、つらさや悲しみを共有して助け合ってきました。人間とは「人の間」と書くように、それぞれの関係性の中で生きているものです。顔と顔を合わせて、お互いの気持ちを分かち合えないと、私たちの心は余裕を失ってしまいます。
「単調な生活」
これまでの災害とちがって、今回の感染症対策ではとにかく人同士が集うことを控える必要がありました。そのため各地のお祭りもほとんどが中止になってしまいました。お祭りというのは「ハレ」の行事、普段と違う特別なものです。友人との会食や旅行といったことも、日常と違うという意味では小さな「ハレ」の行事と言えます。ハレの日を欠いた単調な生活は、伸びきってしまったゴムのようなものです。張りのある健やかな心を保つには、ほどよい緊張をもたらす「特別な日」が大切なのだと思います。
「心の弾力性」
余談ですが、江戸の町は世界でも類を見ないほど園芸が盛んだったそうです。長屋の軒先でも菊や朝顔などを育て、美しさや珍しい品種を競っていたとか。今でも沢山の植木を大事にされているおうちをよくみかけますね。遠出が制限された頃から、そんな人様の軒先を眺めながら散歩することが、私の細やかな楽しみの一つになっています。(その結果やたらと草花の種類に詳しくなってしまいました。)皆さんにもそんな生活習慣の変化はありませんか?
先行きが見えず不安な時には、不確定な将来の事はとりあえず脇において「今」「ここ」にあるものに目を向ける。これは人間が元々身につけている本能的反応です。人間の心には外部からの強い力(ストレス)を受けても柔軟に対応する、弾力性のようなものが備わっていると思います。
「心の盾」
とはいっても、感染症に関する不安はつきることがありません。
「不安」とは本来、危機的状況に対処するための正常な心の反応です。「不安」を感じるからこそ、人間は用心して行動し、自分の身を守ることが出来るのです。
ただし、人間は脳が発達した「考える」生き物ですので、色々なことを考えすぎて、本来正常な「不安」をやたらと増幅させてしまう時があります。そんな時には体も反応して眠れなくなったり、食欲が落ちたりしてしまいます。そんなお困りが続く場合には、どうぞ当科に相談にいらしてください。
(精神科 高橋 杏子)
新型コロナウイルス情報
コロナは続くよどこまでも??
新型コロナウイルス感染症の第5波は、新たな変異株(デルタ株)の出現で、かつてないほど大きな波になりました。当院もコロナ病床を増床し、呼吸器内科医を中心に各科ドクター、他職員が一丸となって対応してきました。感染者の急増で、病棟だけでなく外来でも対応に追われる日々が続きました。
国内のワクチン接種がある程度進んだ今、皆さまも長期にわたる自粛生活で疲れ果て、いつになったらこの生活が終わるのか?そろそろ今後の見通しを知りたい・・と感じておられることでしょう。私たち医療従事者も同様で、2年近くの自粛生活と終わりの見えない感染の波で、疲弊していないといったらうそになります。
そこで少しは参考になるかと、過去の感染症の歴史について調べてみました。日本での記録に残る最古の感染症は奈良時代の「天然痘」です。735~738年に畿内で流行し、大勢の人が亡くなりました。そして聖武天皇は仏教の力で国難を乗り越えようと東大寺の大仏を造立しました。その後も時代を経て何度も流行し、伊達政宗や夏目漱石が子供の頃に罹患したことは有名です。18世紀の種痘の開発とその後の普及により、1980年WHOが撲滅宣言を出しました。
中世ではペストが1347~51年にかけて、ヨーロッパ、アジア、中近東で流行し、中国では国民の1/2、ヨーロッパでは人口の1/3が失われたそうです。その後も何度も各地で流行し、未だにアジアやアフリカで流行があるようです。
スペインかぜ(A/H1N1亜型インフルエンザ)は1918~20年にかけて、第1波から第3波の流行があり、世界中で約5億人が感染し、5千万~1億人が死亡したと言われています。今でもウイルスは変異を繰り返し、毎年秋から冬に流行しています。
このように過去のパンデミックはいったん終息するまで3~4年を要しています。新型コロナウイルスの流行がいつ終息するかは神のみぞ知る・ですが、早く終わらせるためには、これ以上ワクチンが無効となるような変異株を増やさないことが大切で、そのためには大流行を抑えることが重要です。デルタ株に関しては、ワクチン接種で重症化は防げますが、感染予防の効果が減弱することがわかっています。デルタ株の出現で、WHOも集団免疫の達成は困難とみているようです。ですから、すぐにマスク不要とはならず、様子をみながら徐々に行動制限を緩和していくのが賢いやり方でしょう。治療薬が開発されれば将来的にはインフルエンザのようになるのでは?と予想している専門家が多いようです。
(歯口外科 大庭 祥子)
看護専門学校だより
オープンスクール開催
みなさまこんにちは。今回は本校の「オープンスクール」についてお話します。
毎年6月から10月までの間、全7回、看護師を目指し受験を検討している方を対象に、本校の特徴や魅力を紹介するイベントであるオープンスクールを開催しています。
校舎を開放し、教員による授業の様子や学校生活、国家試験の対策や実習などの説明に始まり、看護部長でもある副学校長から実習病院の東京新宿メディカルセンターの紹介、在校生による校内の案内や小グループでの交流、その他看護技術の体験(寝た状態での身体拭きと洗髪、血圧測定、赤ちゃんの沐浴など)や実習病院の見学など、インターネットや資料だけではつかめない雰囲気や様子を体感して頂くことを目指しております。看護学校の特徴であり、受験を考える方々の興味関心のメインは、やはり病院での実習についてではないでしょうか。何よりもこの学校で学ぶ学生のリアルな体験を聞くことは、学校を知ることにつながると思います。
コロナ禍でやむなく規模縮小となりましたが、徹底した感染対策を講じつつ行う対面での開催に加え、Web開催も併用して行っております。
参加者は、さすが、受験を考えている方々であり、1時間余りの説明にメモを取りながら真剣に耳を傾けておられます。最近は親子で参加される方も多く、学生との交流においては時にお子さん以上に親御さんが積極的に在校生に質問をされる場面がみられます。
オープンスクールを開催し、改めて気づいたことがあります。在校生のコミュニケーション能力の高さです。協力をしてくれている在校生は、主に3年生で、参加者の方々との交流は、緊張した雰囲気で始まります。そして学校生活や授業の様子、年齢差のあるクラスメートとの関係作り、実習の大変さと楽しさなどを説明していくうちに、受験生も気になることを無理なく聞ける場になっていきます。これは学校生活や実習で磨かれた能力といえるのではないかと思います。このようなコミュニケーション能力を培っている学生の存在は、本校の何よりの強みだといえます。
「受験まではライバルだけど、入学すれば仲間、更に同志になるので、年齢差があるとか、馴染めるかなどの心配をしすぎず、チャレンジしてみて下さい」と在校生が申しております。受験をお考えの皆様、コロナ禍ではありますが、可能な限り是非一度オープンスクールや見学にいらして下さい。日程の詳細につきましては、当校のホームページをご参照下さい。
(看護学校 佐野 なつめ)
院スタグラム
東京オリンピック2020 当院医師(柔道)、リハビリテーションスタッフ(水球)が医療協力スタッフとして参加しました
柔道(写真提供:リウマチ科 矢部 裕一朗)
水球(写真提供:リハビリテーション室 濱中 康治)
人工関節手術
整形外科
廣瀬 旬 部長
人工関節は整形外科の手術の中でも非常に効果の大きい手術のひとつで、関節の痛みや変形を著明に改善することができます。最近では、インプラントの改良や手術手技の向上により、術後にスポーツを楽しむ患者さまも増えています。当院では以下に挙げる人工関節手術を行っています。
人工股関節置換術
変形性股関節症、大腿骨頭壊死、関節リウマチなどに対して行われます。関節の変形が進行して痛みが強くなり歩行に支障が生じるような場合におすすめしています。当院では基本的に筋肉などを切らずに行う最小侵襲さいしょうしんしゅう手術しゅじゅつ(MIS)である仰臥ぎょうが位前側方いぜんそくほうアプローチ(AL-Supine approach)にて手術を行っています。変形の強い症例などに対しては正確で確実なインプラント設置のためにナビゲーションシステムを用いています。2週間前後の早期退院にも対応していますが、じっくりとリハビリテーションを行いたい方に対しては、1か月〜1か月半の比較的長期間の入院加療も可能となっています。
人工膝関節置換術
ナビゲーションシステム(膝関節)
変形性膝関節症、関節リウマチなどに対して行われます。人工膝関節は除痛や機能改善に非常に優れた手術であり、近年のインプラントや手技の進歩により耐久性も向上してきています。しかし、人工関節を長持ちさせるためには、正確な骨切りによるインプラントの正しい設置を行うことが重要です。当院ではナビゲーションシステムを用いることにより、計画通りの正確な骨切りを行い、インプラントを適切に設置できるようにしています。
人工肩関節置換術
リバース型人工肩関節置換術
肩の人工関節には上腕骨のみを置換する人工肩骨頭及び上腕骨、肩甲骨関節窩かんせつかを解剖学的に再建する全人工肩関節がありますが、これらは肩の腱板けんばん機能が温存されていることが前提です。これらに加え腱板機能修復不能の患者さんにも良好な成績が期待できるリバース型人工肩関節が本邦でも2014年より使用可能となりました。リバース型人工肩関節置換術は日本整形外科学会の定めるガイドライン要件を満たしている医師のみが執刀可能で、一定の手術適応基準もあります。当院では土谷医師が認定医となっております。
人工肘関節置換術
非拘束型
拘束型
関節リウマチ、変形性肘関節症などによる肘関節の痛みや機能障害に対しては人工肘関節置換術を行います。また、高齢者の上腕骨遠位の粉砕骨折も人工肘関節の適応となる場合があります。人工肘関節には2つのコンポーネントの間に連結がないタイプ(非拘束型)と連結されたタイプ(半拘束型)があります。骨の欠損が比較的少なく、靭帯などが保たれている場合には非拘束型を用い、骨欠損が強い例や靭帯の機能が失われている症例に対しては半拘束型を用いています。
人工関節センターについて
人工関節手術の件数は年々増加しており、現在は日本全国で人工膝関節が年間約9万件、人工股関節置換術は6万件以上に行われています。こうしたニーズに答えるため当院にも人工関節センターを設立しました。人工関節置換術を受ける患者様が安全で快適な入院生活を送れるように、整形外科医を中心として、リハビリテーション専門医、理学療法士、看護師などの各部門が連携し、術前計画から手術、術後のリハビリテーションまで含めた包括的な診療を行います。関節の痛みや変形でお困りの際にはいつでもお気軽にご相談ください。
(整形外科 廣瀬 旬)