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第51号 令和4年12月号
*掲載の写真はご本人の了承を得ております。
新型コロナウィルス感染の真実
呼吸器内科、清水先生は、新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)流行の第一波がやってきた2020年初頭から、COVID-19患者さまの受け入れと治療、院内の感染対策、他施設への指導など、当院のCOVID-19対策の中心を担ってこられました。これまであまりに多忙で、とても原稿をお願いする状況ではありませんでしたが、今回は満を持しての登場です。
呼吸器内科部長 清水 秀文
この原稿を書いている2022年8月はCOVID-19の第7波の真っ只中で、これまでにない多数の感染者が日々生じています。一方、第6波や第7波を引き起こしたオミクロン株では重症となる感染者が少ないこともあり、デルタ株による第5波とは大きく様相が異なっています。
ところでこの「重症」とはどんな状態でしょうか。
COVID-19の重症度は表1に示す2020年5月から使用されている基準があります。酸素飽和度(SpO2)とは酸素がどのくらい動脈に取り込まれているかの指標です。数値が低いことは酸素が血液に十分に取り込まれていない状態を反映し、結果として臓器に酸素が行き渡らないことを示します。その状態を少しでも良くするためにチューブやマスクを介して酸素投与が行われます。状態が悪くなり、酸素投与を行っても自力では酸素の取り込みがままならなくなると人工呼吸器の力を借りることになります。人工呼吸器をつける、あるいはつけるかもしれない不安定な状況では集中治療室で管理を行うこともあります。国の基準では集中治療室で治療していると「重症」ですが、東京都では人工呼吸器を使用している場合のみ「重症」としてカウントしています。そのためニュースなどで「本日の重症患者数」が報じられる際には、国と都の基準で数字が異なるのです。さらにオミクロン株が流行すると、都では「オミクロン株の特性を踏まえた重症者用病床使用率」という基準も作り、集中治療室で管理されている感染者も含めた指標を出すようになりました。国の「重症」と同じ基準に別名をつけて発表するようになったのです。ややこしいですね…。
ちなみに水が飲めないぐらい喉が痛くなり入院することになっても、この基準では軽症です。またどんなに息苦しくて酸素を吸っていても、人工呼吸器がついていない限り中等症です。また、高齢の方の中には人工呼吸器といった侵襲的な治療を希望されない方もいます。そうした方々が亡くなった場合には、少なくとも都の基準では「重症」とカウントされることがないのです。
では「重症化」を予防するとされるワクチンや薬はどのような基準を使っているのでしょうか。ここでの「重症化」とは人工呼吸器を使用するようになるという意味だけではありません。薬の効果を検討した研究によっても異なるのですが、酸素を吸うようになったり、入院が必要になったりすることを「重症化」として定義していることも多いのです。「COVID-19 のために入院が必要となる」という指標は、本当に入院が必要な状態の患者さまがどのぐらいいるのか、その方々を受け入れる病院にどのぐらい余力があるのか、そういった視点ではとてもわかりやすい基準だと思います。しかし現在でも日本では隔離だけのためや念のための入院が行われているため、「入院を減らしますよ」というアピールが伝わりにくくなっています。
わかりやすい情報の伝え方が何よりも重要なのですが、情報を受け取る私たちも「重症」「重症化」が何を示しているのかに気をつけて、情報を解釈していく必要があるのです。
(呼吸器内科 清水 秀文)
表1 重症度分類(医療従事者が評価する基準)
新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第8.0版より引用改変
膠原病(こうげんびょう)
膠原病内科 菊地 英豪
「膠原病とはどんな病気でしょうか?」という質問を多くの患者さまより頂きます。時間の限られた外来診療の現場ではなかなか上手に説明できず申し訳なく思う日々です。
実は「膠原病」という単一の病気が存在するわけではなく「全身性自己免疫疾患」としての全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、多発性筋炎、全身性強皮症、血管炎症候群をはじめとした多くの疾患を総称した言い方です。
ちなみに「膠原」とは「コラーゲン」の日本語訳であり、当て字とも言われています。実際には「全身性自己免疫疾患」はコラーゲンを含む器官(皮膚、血管、軟骨、腱など)が必ずしも障害されるとは限りません。ですが日本では「膠原病」という言い方は現在でも広く用いられています。
免疫学の進歩とともに膠原病疾患の診断、治療は向上を続けております。他の分野同様、知見に基づく新薬が次々と登場しガイドラインも改訂を繰り返しています。
例えば、関節リウマチ治療ではひと昔前には限られた治療選択肢しかなかったわけですが、「生物学的製剤」「JAK阻害薬」と呼ばれる薬が普及してからは劇的な改善が得られる患者さまも多くなりました。「私も○○さんと同じ注射の薬(生物学的製剤)を使いたい」とリクエストして来られる患者さまもいらっしゃるほどです。同じ疾患の患者さまが待合室で仲良くなり、どんな治療を受けているのか話し合っているようです。女性患者さまの多い膠原病内科ならではの光景かもしれません。
病気の診断に至る過程ですが複数の臓器に病状が出る方も多く、「問診」「身体所見」の占めるウエイトが今でも非常に高いのが膠原病診療の特徴です。特に初診の患者さまには時間がかかってしまうことも多く後の方の待ち時間が長くなってしまうのが悩みのタネです。問診、身体所見での結果をもとに血液検査、画像検査(レントゲン、超音波など)を加え、診断をつけていきます。実際にはなかなか確定診断に至らない方もいらっしゃいますが、診断が難しい場合が多いからこそ患者さまと「ともに悩み」、治療がうまくいった場合には「ともに喜ぶ」ことが出来るやりがいのある診療科です。
それではどんな時に膠原病を疑うのでしょうか。
「原因が良く分からない関節痛の持続、反復」
「原因が良く分からない発熱の持続、反復」
に対して紹介を頂くことが多いです。どちらも1週間以上自覚症状が続いたり、近くのクリニックを受診して勧められた際には膠原病内科を一度受診してみて下さい。お待ちしております。
(膠原病内科 菊地 英豪)
患者誤認防止プロジェクトチーム
確認のためフルネームでお名前と生年月日をお願いします
外来での診察や検査、入院中に薬が配られたり、点滴を交換する際にスタッフから、こんな問いかけがあると思います。
「いい加減に名前覚えてよ」「いちいち面倒くさい」と思われるかもしれませんが、この問いかけには深い理由があります。
1999年1月11日に横浜市立大学医学部附属病院で、肺の手術をする患者Aさんと心臓の手術をする患者Bさんを取り違えるという事故が起きました。麻酔薬の影響など複数の要因がありましたが、スタッフがAさんに対して「Bさんですね?」と問いかけ、Aさんが「はい」と答えてしまったことに端を発します。ここでスタッフがAさんに『確認のためフルネームでお名前と生年月日をお願いします』と言っていればこの取り違え事故は起きていなかったかもしれません。この事故以降、患者さまの取り違えを避けるため様々な取り組みがされています。
当院でも、手順やルールを作成し日々実践していますが、残念ながら抜け落ちてしまうことがあります。スタッフから『確認のためフルネームでお名前と生年月日をお願いします』という問いかけがあったら、こころよくお返事ください。もし問いかけがなかったら「今日は名乗らなくて大丈夫ですか?」と声をかけていただければ幸いです。ご協力をお願い致します。
(リスクマネージメント部会
患者誤認防止プロジェクトチーム
救急総合診療部 東原 和哉)
お知らせ!引っ越しました。
訪問看護ステーション・看護専門学校
看護学校の移転に伴い、当院附属の訪問看護ステーション「なないろ」も当院本館2階から、お隣りの看護学校と同じ建物に引越しました。
「なないろ」は平成28年10月に開設されました。現在は6名のスタッフが勤務しています。
ここ数年で医療の形は大きく変化しています。以前ならば病院でしか受けられなかった治療やケアも自宅で行えることが増えてきました。患者さまからも、なるべく入院をせずに住み慣れた我が家で治療を継続したいというご希望が多く聴かれるようになりました。そんな時、私たち訪問看護師の役割は年々大きくなっていると実感します。
日々の体調管理や日常生活の支援はもちろんですが、胃瘻などのカテーテルの管理・褥瘡のケア・人口呼吸器管理といった専門的な医療処置まで、訪問看護師がお手伝いできることは沢山あります。
これからも利用者さま一人一人のご希望に合わせた療養生活が続けられるように努めていきたいと思っています。
当院近隣の新宿・文京・千代田区を中心に訪問しています。当院を受診されていない方も対応可能ですので、お気軽にご相談ください。
(訪問看護ステーション
「なないろ」 大内理恵)
看護専門学校
移転式の様子
令和4年7月30日に、当院附属看護専門学校が、飯田橋駅前から当院別館隣に移転いたしました。当日午前10時より移転式及びテープカットが行われ、開校60余年の歴史に新たな1ページを刻みました。
8月25日の始業式では、学生たちは新たな環境での学生生活への希望に目を輝かせていました。これからは、病院への実習の行き来もだいぶ楽になります。地域に貢献できる看護師の育成により一層精進してまいります。
(看護専門学校 古畑 聡子)
院スタグラム
当院のオリジナルキャラクター紹介
COPIT(コーピット)
COPIT = COntrol and Prevention of Infection with Team
チーム医療による感染制御・予防
出身は、筑土八幡神社(新宿区筑土八幡町2-1)
かぐらん
当院の守り神。病院内を日々見回っている
出身は、毘沙門天(善國寺)(新宿区神楽坂5-36)
ヂヱコさん(神楽ヂヱコ)
かわら版おなじみのキャラクター
神楽坂周辺在住の元気な95歳
図1 急性心筋梗塞
急性心筋梗塞とは、冠動脈(心臓の筋肉に血液を送る血管)の中のプラーク(脂質などの固まり)が破綻して血栓ができ、急速に血管が詰まってしまう状態です(図1)。心臓の筋肉が必要とする酸素や栄養がいかなくなり、筋肉が壊死して最悪命にかかわってしまいます。
急性心筋梗塞の初期症状としては、
①胸全体が締め付けられる症状が長く つづく
②突然気分が悪くなり、冷や汗がでる
③意識がもうろうとする
④普段の薬が効かない
などが挙げられます。
診断は心電図と血液検査でおこないます。
多くの場合心筋の厚み全体に虚血が生じていて、一刻も早い再灌流さいかんりゅう療法りょうほう(カテーテルを使ってバルーンやステントで冠動脈の血流を再開通させること)が必要となります。
誰が言ったか「Time is muscle !(時は筋肉なり)」。時間がたてばたつほど心筋が壊死してしまうのです。このため日本循環器学会のガイドラインでは、患者さまが病院のドアに入ってから再灌流までの時間(door to balloon time:DTBT)を90分以内にすることが推奨されています。
当院では夜間でも呼び出し後20分以内にスタッフが病院に到着することを心がけており、年々DTBTは短縮してきております。2020年の平均時間は69分でした。
心臓カテーテル治療
しかしながら、病院到着後の虚血時間であるDTBTだけではなく、発症から病院到着までの時間も加えた総虚血時間(onset to balloon time:OTBT)がさらに重要とされています。
日本における急性心筋梗塞の大規模研究では、発症2時間以内に来院された患者さまに限り、DTBT90分以内の達成例は非達成例に比べて長期予後がよいことがわかりました。
このようにこれからは、患者さまが発症してからいかに早くカテーテル治療のできる病院に到着できるかが重要になってきます。
このために必要なことは二つあります。一つ目は、発症した患者さまが我慢しないですぐに救急要請していただくことです。上記のような症状がみられたら、我慢せずにできるだけ早くお近くの医療機関を受診してください。二つ目は地域ぐるみでの救急診療体制の向上です。
循環器内科
急性心筋梗塞の患者さまが近隣の医療施設を受診されてから、その後カテーテル治療のできる専門施設に搬送された場合、直接専門施設に搬送されるよりもOTBTが約1.4時間遅くなり、長期予後も不良であることが示されています。この点を改善するため、当院では今年度から近隣の開業医の先生からいつでも当院にお電話いただける「ハートライン」を作りました。24時間365日、いつでも開業医の先生方と連携をとって、一刻も早く患者さまを受け入れる体制を整えております。
急性心筋梗塞の診断がなされれば、速やかに当院への受け入れが行われます。当科は地域の皆様の健康を守るため、今後もいろいろな取り組みを行ってまいります。
(循環器内科 齊藤 哲也)