パンフレット

かわら版52号

記事タイトル一覧

第52号 令和5年6月号

大江戸つくどよろず診療所かわら版 第52号

第53号
令和5年6月号

*掲載の写真はご本人の了承を得ております。

大腸がんにもロボット手術 ダビンチ

日本では1年間で女性では約7万人、男性では約9万人の方が新たに大腸がんと診断されており、その数は年々増えています。大腸がんは手術が可能な段階で発見されれば、治る可能性が高い病気です。

一方、平均寿命・健康寿命が長くなっていることから、大腸がんと診断される年齢は高くなっています。一般的に手術治療は体への負担が大きく、若い方であっても仕事を休まなくてはならず、復帰には時間がかかることがあります。また、高齢で心臓や肺などに持病のある方の手術は、安全に行えるかどうかを慎重に判断しなくてはなりません。

そこで活躍するのが、体への負担をできるだけ少なくする腹腔鏡手術です。開腹手術に比べると腹腔鏡手術は傷が小さく、術後の回復が早いことが知られています。

外科 髙野 道俊
外科 髙野 道俊

当院ではより質の高い手術を提供するため、2018年に最新型手術支援ロボット「ダビンチX」を導入しました。ダビンチとは、従来は困難であった複雑な手術操作を可能とするために開発されたロボットです。体にいくつかの小さな穴を開けて、内視鏡と手術器具を取り付けたロボットアームを体内に挿入して手術を行います。

写真1:ペイシェントカート

写真1:ペイシェントカート

ロボットが自動で手術をするわけではなく、トレーニングを受けた医師がサージョンコンソールと呼ばれる操作ユニットに座り操作をします。それによりペイシェントカート(写真1)と呼ばれる機械が動いて手術が進んでいきます。実際は執刀する医師と患者さまはそれほど離れておらず同じ部屋にいます。また患者さまのそばには別の医師がおり、手術を補助しています(写真2)。

ロボット支援手術のメリット

① よく見える

4Kカメラが搭載されており、3D効果などによって切除すべき組織がよく見えます。また、拡大機能もあるため、肉眼では見えないような細かい組織も確認できます。

② 手ブレが少なく正確に動く

ロボットに取り付けられた手術器具には関節がついており、上下左右に動かしたり回転させたりすることができます。そのため人間の手よりも自由に動き、狭い空間にも入ることができます。

以上のことから、従来の腹腔鏡手術よりも制限が少なく、かつ精密な手術が可能になりました。そんなメリットの多いロボット手術にも欠点があります。執刀する医師が実際に臓器を触った感覚がつかめないことです。それを補うために、私たちはシミュレーションを含めたトレーニングを日々積んでいます。

大腸外科の領域では2018年から直腸がんが保険適応となり、2022年からはすべての大腸手術が適応となりました。現在は大腸がん手術の70〜80%が腹腔鏡で行われていますが、いずれはロボット手術が従来の腹腔鏡手術よりも増えてきそうです。

写真2:実際の手術風景↑患者さまとペイシェントカート

写真2:実際の手術風景
↑患者さまとペイシェントカート

私たちはロボット手術によって、より精密で、できるだけ体の負担が少ない治療を目指しています。

(外科 髙野 道俊)

早期発見が大切! 前立腺がん診断の進歩

写真1 新しく導入したKOELIS社トリニティ

写真1 新しく導入したKOELIS社トリニティ

前立腺がんは男性では最も頻度の高いがんであり、我が国では2019年に9万4千748人の方が新たに診断を受けています。前立腺がんの発症には、加齢や遺伝、性ホルモン、食生活など種々の因子が関係しており、そのリスクは加齢とともに上昇することが知られています。前立腺がんは初期には症状を認めないことが多く、かつては進行してから診断されることが一般的でした。しかし近年では健康診断や人間ドックなどで前立腺特異抗原(prostate-specific antigen:PSA)を測定する機会が増えており、早期に診断されることが多くなりました。初期は無症状である前立腺がんにおいて、血中PSA測定検査はとても重要です。

前立腺がんが疑われた場合には血中PSA測定検査の他に、直腸診やMRI検査などを行います。MRI検査ではがんが前立腺内のどこにあるのか、前立腺の外にがんが拡がっていないか、リンパ節への転移がないかなどを調べることができます。しかしながら、これらの検査では確定診断をつけることができません。前立腺の組織を採取して、がん細胞の有無を調べる検査(前立腺生検)が必要です。

イメージ画像

イメージ画像
実際の画像

実際の画像

前立腺生検は、入院をして腰椎麻酔または全身麻酔をかけて行ないます。肛門から超音波プローブを挿入して超音波画像を見ながら、特殊な針で前立腺を穿刺して組織を採取します。ただし従来の前立腺生検では、MRI画像でがんを疑った部位へ正確に穿刺することができなかったため、診断が難しい場合がありました。そこで近年では、MRI画像を超音波画像に融合させて生検を行なうMRI-超音波融合画像ガイド下前立腺生検が実施されるようになりました。これにより前立腺がんの位置を確実に同定でき、より正確な診断が可能となりました。2022年に保険適応となったため、当院では同年9月よりKOELIS社が発売するトリニティという装置を導入しています(写真1)。

当科は赤倉功一郎先生を中心として、計6名の泌尿器科医が診療を行っています。前立腺がんは早期発見がとても大切です。迷った時には後回しにせず、ぜひ早めの受診をお願いします。

(泌尿器科 加藤 繭子)

泌尿器科

泌尿器科

院スタグラム

JAXA から感謝状!

宇宙飛行士の選抜試験でJAXA 宇宙飛行士選考委員を 2 年間行い、素晴らしい2 人を選抜できました。その感謝状を JAXA からいただきました。

JAXA から感謝状!

(耳鼻咽喉科 石井 正則)

四床病室完成!

四床病室完成!

栄養だより はじめました!

栄養だより

飽食の現代、皆様は日々の食事をどのような基準で選ばれているでしょうか?

米を中心に、魚や大豆製品、野菜、海藻をおかずとして食べていた日本人の食生活は、1950年代頃から大きく変化しました。欧米の食文化の流入により、肉や乳製品、パン等の摂取量が増え、脂質の摂取割合が増える一方、米や野菜の摂取量は減ってきています。

食の簡便化が進んで、スーパーには様々な惣菜が並び、コロナ渦をきっかけに食事の配達システムも広がりました。選択肢は増えましたが、食事の知識がないと栄養バランスを整えるのが難しくなったようにも思います。

日々の食事が私たちの体をつくり、食習慣が乱れれば生活習慣病にもつながります。

昔は、船上など特殊な環境では、食品の偏りによる栄養素の不足から、ビタミンB1不足による脚気や、ビタミンC不足による壊血病などの欠乏症を起こすこともありました。

食品には様々な栄養素が含まれますが、含有量はそれぞれ異なり、沢山の種類の食品を摂ることで食事バランスが良くなります。主食、主菜、副菜、乳製品、果物を意識してそろえることをおすすめしています。主食はご飯、パン、麺などの炭水化物を多く含むもの、主菜は肉、魚、卵、大豆製品などのタンパク質を多く含むもの、副菜は、野菜や海藻、きのこなどのビタミン、ミネラル、食物繊維を多く含むものです。おかずをいくつも作ることは大変ですが、肉を炒めるときに野菜やきのこをプラスするなど、食品の種類を増やすとバランスが整いやすいです。ただし、食品の種類を増やして食事量が多くなり、体重増加につながってしまうと、それはバランスの良い食事とはいえません。自分にとって適正な量で食べることも大切です。

生活習慣病の予防、その先の合併症予防、そしてなにより元気に暮らす活力のため、このたび発行開始となった栄養だよりが、皆様の食生活に少しでも寄り添えたら幸いです。

栄養だよりは年4回発行予定です。院内では総合案内前や患者サポートセンター横、糖尿病内分泌内科外来待合のラックにあります。ぜひお手にとってご覧ください。バックナンバーはホームページにも掲載しています。

また、疾患によっては食事療法を行うこともあります。

個別の栄養相談も行っていますので、食事療法でお悩みのことがあれば、ぜひ主治医へご相談ください。

(栄養管理室 上野 優佳)

看護専門学校だより

当校は昨年月にJCHO東京新宿メディカルセンター別館の隣に引っ越しました。新しくなった学校の内部をご紹介します。とてもモダンな内装で、外部からお越しの方にも好評です。ナイチンゲール像に見守られながら、学生達は日々勉強や実習に励んでいます。
(看護専門学校 古畑 聡子)

多目的室(ナイチンゲールホール)

多目的室(ナイチンゲールホール)
情報処理室

情報処理室
実習室

実習室

もしものとき」に助けになる『人生会議』、ご自身の希望や価値観を、大切なひとに話していますか

誰でも、いつでも、命にかかわる大きな病気やけがをする可能性があります。そんな「もしものとき」には、多くの方が大切なことを自分で決めたり、自分の意思を人に伝えたりすることができなくなると言われています。今回は私が出会った患者さんとご家族に訪れた「もしものとき」のことをお話しさせて頂きます。

Aさんの息子さんは医師との面談を終えて、硬い表情をされていました。80歳代のAさんは奥さんの助けを借りて自宅で生活していましたが、脳梗塞と誤嚥性肺炎で入退院を繰り返しています。息子さんに声をかけると、「先生から、『食事をするとまた肺炎を起こしてしまう。頑張ってきたが、今後は食事を摂ることは難しいかもしれない。希望するなら胃瘻を作ることも選択肢の1つ』と言われました。父は何度も『胃瘻は作らない』と言っていたので、その思いは通したいけれど…。まだ母も元気ですし、本当にそれでよいのか…。」と話されました。今のAさんは、脳梗塞のため自分で今後のことを決めることができず、息子さんが代わりに決めることになりました。その後、Aさんは胃瘻は作らずに自宅退院することになりました。退院前に息子さんは「胃瘻を作らないことが良かったのか、まだわからないですね。でも『家にいたい』というのが、父のもう一つの希望でしたから、それを叶えてやろうと思います。」と話されました。

人生会議

冒頭でもお話ししたように、「もしものとき」には、多くの方が大切なことを自分で決めることができなくなります。代わりに、自分の信頼する人が「多分、こう考えるだろう」と本人の気持ちを想像して、今後の医療や過ごし方について考えて決めていきます。その時に「人生会議」が大きな助けとなるのです。

「人生会議」とは、自分が大切にしていることやどう生きていきたいか、どのような医療やケアを受けたいかを、信頼している人と前もって繰り返し話しあうことです。これはアドバンス・ケア・プランニングといわれ、「人生会議」はその愛称です。

Aさんは、著名人の闘病生活のニュースをみたことをきっかけに、自分のやりたいことや、大切にしていることなどを時々話していたそうです。それを聞いていた息子さんは、「父ならこう考えるだろう」と想像しながら今回の決断をしました。Aさんが元気な時に話していたことが、息子さんの助けになったと思います。今後その決断に悩むことがあるかもしれませんが、それを癒すのも「お父さんの希望に添って決めた」という思いではないでしょうか。

「もしものとき」は誰にも訪れます。元気なうちに、自分の希望や価値観について、信頼できる人と話し合あってみてください。好きな食べ物やこれからやりたいこと、過ごしたい場所はどこかなど小さなことからで構いません。繰り返し話し合う中で、今後の人生で大切にしたいことなども話題にしてみてください。そうすることで、あなたの希望がこれからの生活に反映され、「もしものとき」に家族の助けになると思います。

(看護部 榎本 英子)